海老フライの尻尾、鮭の皮、パセリ…についたコメント

11  名前::2018/06/22(金) 00:33:59  ID:p02oxUoW PCからの投稿
「水仙」太宰治著より

蜆汁がおいしかった。
せっせと貝の肉を箸はしでほじくり出して食べていたら、 
「あら、」夫人は小さい驚きの声を挙げた。
「そんなもの食べて、なんともありません?」無心な質問である。
 思わず箸とおわんを取り落しそうだった。
この貝は、食べるものではなかったのだ。
蜆汁は、ただその汁だけを飲むものらしい。
貝は、ダシだ。貧しい者にとっては、この貝の肉だって
なかなかおいしいものだが、上流の人たちは、この肉を、
たいへん汚いものとして捨てるのだ。なるほど、
蜆の肉は、お臍へそみたいで醜悪だ。
僕は、何も返事が出来なかった。
無心な驚きの声であっただけに、手痛かった。
ことさらに上品ぶって、そんな質問をするのなら、
僕にも応答の仕様がある。けれども、その声は、全く
本心からの純粋な驚きの声なのだから、僕は、まいった。
なりあがり者の「流行作家」は、箸とおわんを持ったまま、
うなだれて、何も言えない。涙が沸わいて出た。
あんな手ひどい恥辱を受けた事がなかった。
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