通常表示に戻る

空白・改行を保持して表示します。横にスクロールできます。

理解できない構文
覚えることのできない年号。
上がらない偏差値。
「もう……限界ダス!!」
叫んで、ベンゾウは夜の街に駆け出した。
「どいつも~ こいつも~ クズばかり~…っとくらあダス!」
ベンゾウはワンカップ片手に街を歩く。学生服で酒を飲むその姿に誰もが一瞬顔をしかめるのだが、首から上を眺めてそれが未成年を意味するのではなく、ただハイボリックすぎるコスプレだということに気付き、目を伏せる。
刈野勉三。しかし彼はまだ18歳。
「やってらんねえダスよ!」
ガコン!路地裏のゴミ箱を蹴り上げる。長い浪人生活で溜まりに溜まったストレス。それを晴らすのは並大抵のことではないだろう。
「こんな時は女を買うに限るダス」

「社長!どうスか!いいコ揃ってますよ!」
「ちょっと写真を見せるダス」
「へい、どうぞ!いやあ、このコが今一番の人気でして……」
「シコシコ・・・ウッ」
「ちょ!お客さん!」
「もういいダス。イッたらどうでも良くなる、これは真理ダス!」
そう言ってベンゾウは店先で手早く事を終えると足早に去った。
「なんだったんだ……一体」
「ベンゾウ……」
「あっ、マサさんチーッス!え?今のヤツのこと知ってるんですか?」
「ああ、アイツの名はベンゾウ、通称オナクールのJOEだ。2年前に死んだとばかり聞いていたんだが…」
。くしゃくしゃに握りつぶされたチラシが、雑踏を転がる。
「嵐が、来るな……」
呟いたマサは新しいタバコに火を点けた。
「満たされないダス…満たされないダス…」
果てたばかりのベンゾウはしかし、未だ鬱屈とした気持ちを抱えていた。
「こんなにモヤモヤするのは小野妹子を想像上でレイプした時以来ダス……」
10年前、オカズに事欠いたベンゾウは小野妹子を脳内で犯した。
ベンゾウの中で妹子は貞淑で、可憐で、けれど時に大胆で――そんな彼の理想を具現化したような女だった。
「ホラホラ、どうしたんダスか?ワスの草薙の剣が欲しいんダスか?」
妹子「くやしい……薬さえなければこんなヤツに……ビクビクッ!」
「そんなこといいながらアンタのココはレマン湖のようにねっとりダスなあ……」
妹子「イクーーーーッ!!」
これが彼のゴールデンパターン。この展開でベンゾウがヌイた数は5桁を超える。
けれども彼が高3の受験期。センター試験の前日に『風呂で覚える日本史』を読んでいた時のことだった。
「なになに【遣隋使・小野妹子(♂)】……?!」
これが、ベンゾウが浪人した理由だった。
切なくも悲しい、でもどこか美しい――エピソード。
「裏切りの連鎖ダスな、この世の中は……」
努力するのに上がらない偏差値。
話す相手は近所のジャリ坊どもだけ。
そしてこの前聞いてしまった。近所の主婦どものウワサを。
「奥さん、三丁目のベンゾウさんは危険ザマスよ!この前なんてアタシのことを濡れた捨て犬のような目つきで見てたんザマス!
怖いザマス……きっとワタクシ、彼の脳内で5回は犯されてるんザマス!」
所詮、最下層の浪人生なんてこんな扱いだ。
何をしたわけでもないのに悪いウワサが立つ。
冗談じゃない。オレが5回犯しただって?バカらしい。8回だ。
「こんなイライラする夜はどこかで一杯飲(や)りたいダスな……」
そう呟いて財布を開ける。野口が一人、寂しそうに笑っていた。
「これじゃあ吉野家でビールを開けるのがせいぜいダス……」
「あれ?もしかしてベンゾウか?」
声の方を振り返った。するとそこには
「やっぱベンゾウじゃん!オレオレ、オレだよ!高校の時の同級生、もこみちだよ!」
「もこみち……」
そうだ、コイツはオレが学生の頃懇意にしていたイケメン、もこみち。
久しぶりに会った。
「もこみち、元気にしてるダスか?」
「いやー、仕事が忙しくてね。なかなか」
「よくテレビに出てるダス。たまに見かけるダス
「まだまだ駆け出しだよ。それにしてもどうしたんだ?こんなとこで」
彼は僕が浪人してることを知っている。こんなところをフラフラしていれば、疑問に思うのも無理のないことだろう。
「まあ、そんなことはどうでもいっか!シケたツラすんなよ!奢ってやるから飲みに行こうぜ!」
「でも、ワス、金がないダス」
「つまんないこと気にすんなよ!奢ってやるから!」
そういうともこみちはオレのヒップをグッと掴んだ。
ジュン!思わず股間が熱くなる。学生の頃からコイツはこれだ。悪意はないんだけれど、
やはりいきなり触られたら――本能が疼くんだ。
「もこみちくん、お尻は勘弁ダス!」
「挨拶だよ、挨拶」
そう言ってカラリと笑うもこみち。
変わってないな、コイツも――僕は薄く笑った。
付いていくと、そこは渋谷のクラブだった。ミラーボールが妖しく光、ラウドミュージクが大音量で流れる。
「すごいダスな、ここは」
「こういうところ初めて?」
「普段はもっぱらつぼ八ダスからなあ」
「そうか、じゃあ楽しもうぜ!!」
見ると、場内には『四則演算より先にフェラチオを覚えました』、とんな女が踊り狂ってた。僕らはカウンターに向かうと、もこみちはコロナ、ベンゾウは鬼ころしを注文する。
「クラブで鬼ころしかよ」
「これがナウなんダス」
ベンゾウは一息に鬼ころしを煽った。
「くうっ!染みるダス!!」
「そういえば、どうしたんだベンゾウ?暗い顔しちゃって」
「いやあ、実は浪人生活に行き詰まりを感じてたんダスよ」
ベンゾウは素直に話すことにした。
「実際どうなの?どこ受けたいの」
「法政大学に行きたいダス」
「結構ムズいよな、あそこ。今偏差値どのくらいなの?ベンゾウは」
「28ダス」
「に…!お前それ、人間の取れる数字じゃねーよ!!」
「なんダス!

ベンゾウは思わず大声を上げる。
「バカ、迷惑だぞ」
「すまないダス。けど、偏差値が上がらないのが頭痛のタネなんダス」
「予備校通ってんだろ?それなのになんでそんな…」

「分からないダス。大手に通ってるんダスが……」

「どこ?」

「駿台ダス。あ、パンフレット見るダスか?」

そう言ってゴソゴソと鞄をあさるベンゾウ。

「これダス。完璧なカリキュラムのはずなんダスが」

もこみちはそのパンフレットを見て目を丸くした。

「お前これ……ヒュンダイじゃねえか!」

「似たようなもんダス」

「いや、ここ、予備校じゃないよ……?」

「なんダスと!」

ベンゾウは慌ててパンフレットを奪い返す。
株式会社ヒュンダイ。
事業の内容:車製造

「ぬかったダス……騙されたダス……」

プルプルと震えるベンゾウ。
ムリもない、大学受験への道を歩いていたつもりが、いつの間にか特アへの道に切り替わっていたのだから。

「フィッシング詐欺ダス。最近よくある手口ダス」

「怖いよな、世の中って」

「まったくダス。許せないダス!」

「まあ落ち着けよ。これでも飲んだらスッキリするって」

「なんダスか?これは」

その言葉にもこみちは、クク、と不敵に笑った。

「クスリだよクスリ。これ飲んでキメキメになろうぜ!!」

「昔を思い出すダスねえー」

ベンゾウはクスリを一つ摘み上げると奥歯でガリガリと噛んだ。

「キくダスなあーコレは」

「ベンゾウさん、やめるナリ!」

不意に叱責の声が飛んだ。
聞き覚えのあるこの声は……?

「こ、コロちゃん!」

「ベンゾウさん、何してるナリか!!」

「なんだあ?この妖しげな生き物は」

もこみちがポケットからトンファーを取り出して近寄っていく。
まずい、アレは人を殺す目だ!

「き、貴様は何ナリか!あっち行くナリ!」

「へへ、オレがそんな素直な人間に見えるのかよ。オラッ!これでもくらいなー!」

ビュッ!もの凄い速さで振り下ろされるトンファー!

「ギャー!」

コロスケの頭が吹き飛んだ。

「まったく、酒が不味くなっちまった…おいベンゾウ、お前さんあんなシャバい連中と付き合ってるのか?」

「まあ…そうダス」