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4月に流血の政権転覆劇があったキルギス。

とにもかくにも新政権発足で一息、、、と思いきやそう簡単には行きませんでした。
キルギス南部。
キルギス系と少数派のウズベク系の若者が衝突。

この小競り合いが引き金となり、キルギス人とウズベク人の抗争へと燃え広がったのです。
騒動は今も収まらず、死者180名以上、負傷者2000名以上と言う大惨事になっています。
ただし、死傷者数については、その数倍であるとも言われていてキルギス当局も認めています。
(2010年6月18日現在)。

都市機能は麻痺し、電気水道ガスの不通はもちろん、食料確保にも事欠く惨状が伝えられています。
ニュースを見ると騒動の原因は根強いウズベクーキルギス両民族の対立と言われています。
なるほど、確かにこの指摘は間違いではありません。
昔からウズベキスタンーキルギスでは国境線を巡るいざこざが多発してきました。
これらは、時に激しい民族抗争となって表面化しました。
しかし、家内やその親族は今回の問題の本質は違うところにあると考えています。。

“キルギスはキルギス人の国であり、キルギス人中心であるべき!”
他民族を排斥する民族主義の高揚が問題の本質と見ているのです。

その証拠に家内に騒動の印象を尋ねると、“馬鹿馬鹿しいポグロム”と吐き捨てました。
“ポグロム”とはロシア語。

元来の意味は“破壊”ですが、ロシア圏では帝政ロシアが進めたユダヤ人弾圧政策を指します。
転じて極端な民族主義を指すこともあります。

家内はキルギスの民族主義を揶揄する意味でこの言葉を選んだのです。
民族主義の全てを否定はしませんが、それにしてもこのグローバル時代に何ともナンセンスです。
大体民族主義を叫ぶ人は別にキルギスに限らず各国にいますが、多くが異端扱いされています。
例えばロシアで有名な民族主義者と言えばウラジミール・ジリノフスキーさんがいます。
愛国主義が強くなったとされるロシアですが、そのロシアですら完全に色物扱いする人物です。
つまり、現代社会にそぐわない民族主義がキルギスで横行していると家内や親族は嘆くのです。
実は、日本ではあまり報じられていませんが、現地の情報を集めると、キルギスでの民族主義台頭の姿が浮かび上がります。
4月の政権転覆以降、キルギス人による少数民族イジメは、ウズベク人だけでなく、他の民族にも及んでいるのです。
首都ビシュケク郊外ではロシア人居住区が襲撃されましたし、出稼ぎ中国人へのリンチ事件も後を絶ちません。北部ではコリョサラム(朝鮮系民族)が袋叩きにされ大怪我をしたとの噂も聞きました。
今回の騒動でもウズベク人とは関係ないパキスタン人が殺傷されたと一部の報道が伝えています。
要するに政権転覆をきっかけに『この土地はキルギス人のもんだ。キルギス以外のヨソ者は出てけ!』
こんなキルギス民族主義が頻出しているのです。

家内のお母さんも少数民族のロシア人。
どちらかと言えば楽観主義のお母さんですが、警戒して日々を過ごしています。
バザール(青空市場)に行く際は、ご近所と集団で出かけていますし、玄関のカギも頑丈なものに付け替えました。
我が家からも日本製の防犯ブザーを送るだけでなく、万が一事態がさらに切迫した際は日本に滞在してもらうことを考えています。

さて、、、、
では、民族主義は混迷が続くこの国にとって吉と出るのか?
民族意識発揚が国のV字回復につながるのか?
答えはその反対。
民族主義が台頭すればするほどキルギスは没落と混乱のスパイラルに苦しむでしょう。

理由は簡単。
今や人間のつながりは民族より国、国より地域とスケールアップしているからです。
なんだかんだ言いながらも他民族や他国と折り合いをつけていかないと生きてはいけません。
ましてや古来から東西の往来地であったシルクロードでは共生の発想が必須です。
自民族の誇りやプライドばかりを追求することは、すぐに他民族の警戒や反感を買います。
そして、やがて大きなツケとなって帰ってくるのです。
それを裏付ける様に多数の同胞を殺傷されたウズベキスタンは態度を硬化。
もともとそれほど仲がよくないキルギスとの関係はさらに冷え込んでいます。

一方、キルギス北部に接するカザフスタンは国境線でのいざこざを警戒。
おかげで“ヒト・モノ・カネ”の行き来が限定されています。
豊かなカザフスタンとのビジネスを営むビジネスマンは大弱りです。

深刻なのはかつての宗主国ロシアの対応です。
キルギス暫定政権のオツンバエワ代表は混乱収拾のためにロシアに軍の派遣を要請。
これに対し、ロシア側はわずかに空挺部隊の増派を決めたのみです。

増派と言っても空挺部隊の目的はキルギスにあるロシア軍のカント飛行場の守備。
事実上、キルギスの申し出を断ったのです。
拒絶の背景にはロシア同様キルギスに基地を置くアメリカやキルギスの隣国中国を刺激したくないことがありますが、
一方でキルギス国籍を持つロシア人を守りきれない現政権に手を差し伸べる気になれない感情的な部分があることは否めません。
それを裏付ける様にちなみにロシア人が集うネット掲示板では、キルギスに辛らつな意見ばかり。

『もうキルギスなんて放置しろ。』
『キルギス国籍のロシア人だけ受け入れろ。』と激烈な言葉が並びます。
これらの書き込みに触発された訳ではないでしょうが、一連の騒動にウンザリしてロシアやカザフスタンへ移住を決意するキルギス国籍のロシア人が増加していると聞きます。
家内の母親や親族も同様。
ソビエト崩壊後もキルギスの気候や街を愛し、この地に定住していたお母さんですが、今ではもともとのホームタウンであるロシアのノボシビルスクへの移住を真剣に考えています。
この傾向はロシア人だけではありません。
キルギスの少数民族全般に強まっているとも言われています。
特にインテリ層は、民族主義者の現実認識のなさに呆れて真っ先に出国の準備を始めています。
これら人材の流出はボディブローの様にジワジワとキルギスを蝕んでいくでしょう。

家内の親族が放った冷たい一言が脳裏にこびりついて離れません。

『民族主義者なんて所詮現実を知らない無教養な連中だよ。現実を知るマトモな連中がこの国を見捨てた時、この国はジャングルと同じになるだろうね。』