通常表示に戻る

空白・改行を保持して表示します。横にスクロールできます。

少子化が止まらない理由は「オッサン」にある?
-「男性学」の視点から「働き方」を考える-

サイボウズ代表取締役 青野慶久
武蔵大学 社会学部社会学科 田中俊之

田中:「男性学」とは、簡単に言うと、“男性が男性だから抱えてしまう問題”を扱う学問です。
    例えば、「働き過ぎ」はその典型ですね。過労死や過労自殺などが大きな社会問題になっています。
    日本では70年代に、男女の不平等にたいする意義申し立ての運動としてウーマン・リブがあり、
    Women’s studiesが女性学という訳語で紹介され、大学でも女性学の講座が開設されています。
    女性学の影響を受けて、90年代に男性学は生まれました。

青野:男性学ってあまり知られていないですよね?

田中:講演に行って会場の方々に「男性学ってご存知ですか?」と尋ねると、みんなうつむきますからね(笑)。
    実は’90年代に、ウーマン・リブの男性版で「メンズ・リブ」というのがあったんですよ。
    新聞にも「男が弱音を吐いてもいいじゃないか」「男の生きづらさを男性が連帯してアピール」などといった
    記事が載っていたりして。ただ2000年代になって景気の悪化が進むと、「仕事があるだけいいでしょう」
    みたいな社会的な説得も強くなり、今ではメンズリブは壊滅状態です。

青野:「そんなこと言っている場合じゃない」となったんですね。

田中:しかし今の男性は、ひと昔前のような“一度会社に入ったらクビになることもなく、
    給料もどんどん上がっていく”といった状況には置かれてないですよね。
    男性1人の稼ぎで家計を成り立たせていくのはかなり難しくなっている。

青野:一方で、「ワークライフバランス」について、否定的な考えを持っている男性って実は結構いますよね。
    先日、とある大手の営業会社の優秀な社員が、飲みの席で「ワークライフバランスなんていう人は、
    仕事が面白くないんだと思う」と言っていました。
    “俺はワークライフバランスなんて考えずに仕事に打ち込んできた、そんなことを言う奴は甘い”、
    みたいに思っていることが感じ取れて、この問題は根深いものがあるなと。

田中:“競争して勝つ”のは、特に男性にとって非常に心地良いことですからね。
    僕は“熱心に働く”ことを否定するわけではないのです。仕事ってやっていて面白いし、
    ハマっちゃう面もあるじゃないですか。一生懸命働いている人がいるから社会が成り立っているわけで、
    否定的にばかり捉えていてもバランスが悪いですよね。ただ、働き過ぎによって死んでしまったり、
    健康に害をきたしたりというのは大いに問題なわけで。

    そして「こうやって家庭も顧みずに頑張ってきた俺は偉い」みたいに、
    そうでない人を蔑む意識が感じられることも問題です。
    仕事中心というのは個人の生き方ですから一概にダメとは言い切れない。
    それよりも、自分とは違う他者を蔑んだり、見下したりするのが問題です。

青野:「なぜ俺と同じようにできないんだ」というわけですよね。そういう上から目線が頭にくるんです。
    その意味で僕はよく「オッサン批判」をするんですよ。少子化が止まらない理由は、
    上の世代のオッサンたちのある層が仕切っているからだと考えていて。
    このオッサンたちは、子育てなどしないで仕事に没頭してきたから出世して今の地位がある。
    だから少子化に対して有効な手も打てないし、打とうとしたら今まで自分がやってきたことを
    否定することになりかねない。だから変わらないんじゃないかと。

田中:そもそも男性学などのジェンダー論の根本は、「いろんな人がいてもいい」ということなんです。
    結婚する人がいてもいいし、しない人がいてもいい。同性愛の人がいてもいい。
    違う価値観の人を認め合えれば、蔑むことはなくなります。
    けれども自分の好きなフレームワーク以外を否定する人も多いんですよね。

青野:今、サイボウズで男性が育児休暇を申請しても、誰も何も気にしませんよ。
    男性が育児休暇を取ろうとした時に、よく言われるのが「マネジメントが難しくなる」ということ。
    でも本当は難しくないんです。子供が生まれるなんて半年以上前からわかるわけですから。
    復帰についても事前にわかりますよね。難しいという人は、単にマネジメント力が不足していて、
    それを他人のせいにしているだけです。

田中:社長がいなくなると組織が回らなくなるなら、その組織が弱いということですよね。
    社長が病気で倒れてしまうこともあるんだから。

青野:僕もまさか自分が育児休暇を取るなんて思っていませんでしたが、実際に育児をしてみると本当によかった。
    明らかに大事だと思いました。育児って、当たり前ですけれども、次の世代を育てること。
    商売人的に言うと、次の市場を育てるわけですよね。
    日本はここ何十年もそこをないがしろにしてきたのだから、
    市場がシュリンクして商売がしにくくなるのも当たり前です。
    自分が命を削って長時間働くことが、実は次の世代の命を削ることにもなっている。
    その点を多くの男性に気づいてほしいですね。