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『いま妊娠4ヶ月でおなかは出ていません。
 1時間半かかる通勤電車でできれば座りたいんですが、いやな顔をされてしまうのでマタニティマークは隠しています。
 前にマタニティマークをつけていたら「病気じゃないのにそんなもんつけて席譲ってもらおうとすんな」と言われて、
 それがショックで電車が恐くなってしまいました。つわりがひどいのもあって、通勤が苦痛です。』


こんな相談をされました。
私も電車でマークをみて舌打ちされたことがあるので、どこに立っていればいいのかわからないあのときの悲しさを思い出しました。

『妊娠は病気じゃない』昔の誰かが言ったこの言葉に前から疑問を感じています。
本当にそう言い切れるのか。
そもそも広辞苑によると『病気』の定義は
『生物の全身または一部分に生理状態の異常を来し、正常の機能が営めず、また諸種の苦痛を訴える現象』とあります。
では、妊娠がこれに当てはまらないのかと言いますと、実は当てはまってしまうのです。

妊娠すると、母体には全身変化がたくさん起こります。
大量出血に備えて循環血液量が増えるし、血液凝固能(血を固めるちから)が亢進します。
胎盤や子宮にまで血液を送るために心臓が頑張るので、心臓に負担がかかります。
消化管の運動は鈍り、便秘になります。
高血圧症、糖尿病をはじめとして様々な疾患を合併しやすい『病態』に妊娠はあるのです。

また妊婦が辛いのは、単に大きくなったおなかが重いからだけではありません。
妊婦のからだには初期から、つわりや血圧の変動、手足の浮腫、生理的貧血など、他人には見えない不調がたくさん現れます。
マタニティマークはおなかが出ていない時にこそ、効力を発揮されるべきだと思うのです。
倒れてしまっては赤ちゃんもお母さんも危険ですから、その前に周りが変化に気づいてあげるためにです。

でも妊婦はただ席を譲らせようとしてマークをつけているのではないことをご理解ください。
そして、罵詈雑言を浴びせられる対象になるべきでもないこともです。
マークを隠す必要はないし、疲れて優先席で寝ている健康な人よりはよっぽど、『病気』らしく、守られるべきといえるのではないでしょうか。

ただ、本人が希望して(場合によりますが)その状態に至っているということが、
病気ではないと言われてしまう所以なのかもしれません。
それに子供を授かったことを病気とは言いたくないですよね。
体の変化や辛さを感じにくい人もいるし、出産をするお母さんたちが皆経験するんだから大したことないとも思われがちです。
では、そう思われる方のために妊産婦死亡率の推移をみてみますと…

昔のお母さんたちは、自宅で産んだり大人数を産んでいたぶん亡くなることも多かったのです。
1900年には6200人の妊産婦が亡くなりました。
これに対し最新の日本の妊産婦死亡率は10万人に4人(それでも42人いる)です。
こんなにも死亡率が減ったのは、決してお産が簡単になったからではありません。
女性一人あたりの出産回数が減ったからだけでもありません。

産科の先生や看護師さん、助産師さん、全てのお産に関わる全ての方々の努力の賜物です。
お産で『死なない』ことは当たり前ではないのです。
衛生管理は行き届いているし、定期検診や施設での出産が主流となり妊産婦や胎児の異常を素早く見つけられる。
この時代に日本でお産ができる事はとてもありがたいのだと思います。

せっかくの『日本』ですから、電車に乗ることに怯える妊婦さんが減ることを願っています。