私が救急の医者になった理由は幾つかあるが、即断即決し、自分の仕事がその場で完結するから、というのはその一つだ。しかし、その特性上(訳注:一般的に、応急処置の後は各診療科に紹介する)、その後患者がどうなったかは知る由もない。しかし、そうではないこともある。
ある日のこと、朝からのシフトに入ると、救急外来は比較的落ち着いていた。研修医とともにカルテの下見をしようとしたら、放射線診断科から電話がかかってきた(訳注:米国では殆どの場合、放射線診断科の医師がレントゲンやCTの判断を行っている)。この時間帯にかかってくる電話は、大概昨晩の画像について読み直したら新たな発見ないし見落としがあったことを告げるものだ。案の定、昨晩肺塞栓症の除外のため22歳の女性に行われたCTで、右冠動脈起始異常が発見されたという話だった。心臓を養う血管の走行に生まれつきの異常があり、狭いところを通ったりするので、心筋梗塞を引き起こすことがある疾患である。若い人の心臓突然死の原因の15%を占め、若いスポーツ競技者に起こる突然死の原因としては二番目だ。
私は直ちに循環器科の医師に電話でコンサルトを行った。悪いことに、患者は喘息の持病もあり、その治療に使うβ作動薬が心拍数を高めるためその分心臓に負担がかかる。なるべく早く循環器の医師に診せるということで話がついた。そのための電話は、私がしなければならない。しかし、なお悪いことに患者は無保険なので、これから必要になる莫大な医療費についても心配しなければならず、気が重かった。30年救急の医者をやっているが、悪い知らせを伝える、ということは未だに慣れない。外来が混み始めた。早く電話しなければ。
「もしもし、ジョーンズさん?救急外来医師のホニッグマンです。その後お体の具合はいかがですか?」
「おかげさまで昨晩よりは良くなりました」
「それは良かった。実は、昨晩行ったCTの結果なんですが‐」
「何か問題でも?」
「まだはっきりしたことはわかりませんが、心臓の血管に異常が見つかりました。きつい作業を行ったり、心拍数が上がったりすると心臓に行く血流が途絶えてしまう可能性があります」
少しのポーズ‐私には何時間にも感じられた!
「…どういう意味ですか」患者の声は震えていた。
患者の心拍数が上がっていくのが想像できる。私は丁寧に説明を続けた。心臓を養う二本の血管のうち、一本がおかしな位置にあること。手術をすれば治ること。過重な作業は避けること。β作動薬は避けること。患者はついに泣き出してしまった。なだめつつ説明を続けた。医療費の問題についても話し合った。彼女のような患者のための基金はあり、その適用条件は厳しいがなるべく努力すること。等々を話し合い、数日後、彼女は循環器科を受診した。彼女の置かれた困難な状況を思い闘志を掻き立てられた心臓外科チームは、ベストの手術を行い、彼女は無事ICUを退院した。
二年が経った。ある日のこと、いつものように私は救急外来で仕事をこなしていた。研修医が、次の患者に ついてプレゼンを行っている。彼女はあんなに若いのに、変わった既往症があって…と述べたところで、別の 患者のところへ呼ばれていった。一人残された私は外来ベッドにうずくまる患者の元に行き、自己紹介を行 った。患者はかっと目を見開き
「えっ、今なんて」
「医師のホニッグマンです」
彼女の頬に一筋の涙が流れた。
「どうかなさいましたか?」
「先生に助けてもらったんですよ!!」
二年前のあの子だった。彼女はその後のことについて話してくれた。手術後の体調のこと。新しい仕事を見 つけたこと(健康保険がついている!)。私は呆気にとられて彼女の手を握るほかなかったが、すぐに嬉し くなってもらい泣きしてしまった。医者になってよかったと思う瞬間である。しかし、同時に思いをめぐら せもするのだ。もし真の「ヒーローたち」がいなかったら、彼女はどうなっていたか。CTで右冠状動脈起始異常を見抜いた放射線診断科医師。適切な助言をくれた循環器科医師。素晴らしい手術を行った外科チーム。彼らがいなければ、今頃彼女は単なる統計上の「心臓突然死」になってしまっていたに違いない。現在わが国では医療保険制度に関する議論が喧しいが、医療費が高騰し無保険者が増えたら、ジョーンズさんのようなケースを救命するのは難しくなるだろう。保険制度について考えるとき、我々は常に患者のためやるべきことをやる、ということを唯一の道しるべとしなければならない。
ある日のこと、朝からのシフトに入ると、救急外来は比較的落ち着いていた。研修医とともにカルテの下見をしようとしたら、放射線診断科から電話がかかってきた(訳注:米国では殆どの場合、放射線診断科の医師がレントゲンやCTの判断を行っている)。この時間帯にかかってくる電話は、大概昨晩の画像について読み直したら新たな発見ないし見落としがあったことを告げるものだ。案の定、昨晩肺塞栓症の除外のため22歳の女性に行われたCTで、右冠動脈起始異常が発見されたという話だった。心臓を養う血管の走行に生まれつきの異常があり、狭いところを通ったりするので、心筋梗塞を引き起こすことがある疾患である。若い人の心臓突然死の原因の15%を占め、若いスポーツ競技者に起こる突然死の原因としては二番目だ。
私は直ちに循環器科の医師に電話でコンサルトを行った。悪いことに、患者は喘息の持病もあり、その治療に使うβ作動薬が心拍数を高めるためその分心臓に負担がかかる。なるべく早く循環器の医師に診せるということで話がついた。そのための電話は、私がしなければならない。しかし、なお悪いことに患者は無保険なので、これから必要になる莫大な医療費についても心配しなければならず、気が重かった。30年救急の医者をやっているが、悪い知らせを伝える、ということは未だに慣れない。外来が混み始めた。早く電話しなければ。
「もしもし、ジョーンズさん?救急外来医師のホニッグマンです。その後お体の具合はいかがですか?」
「おかげさまで昨晩よりは良くなりました」
「それは良かった。実は、昨晩行ったCTの結果なんですが‐」
「何か問題でも?」
「まだはっきりしたことはわかりませんが、心臓の血管に異常が見つかりました。きつい作業を行ったり、心拍数が上がったりすると心臓に行く血流が途絶えてしまう可能性があります」
少しのポーズ‐私には何時間にも感じられた!
「…どういう意味ですか」患者の声は震えていた。
患者の心拍数が上がっていくのが想像できる。私は丁寧に説明を続けた。心臓を養う二本の血管のうち、一本がおかしな位置にあること。手術をすれば治ること。過重な作業は避けること。β作動薬は避けること。患者はついに泣き出してしまった。なだめつつ説明を続けた。医療費の問題についても話し合った。彼女のような患者のための基金はあり、その適用条件は厳しいがなるべく努力すること。等々を話し合い、数日後、彼女は循環器科を受診した。彼女の置かれた困難な状況を思い闘志を掻き立てられた心臓外科チームは、ベストの手術を行い、彼女は無事ICUを退院した。
二年が経った。ある日のこと、いつものように私は救急外来で仕事をこなしていた。研修医が、次の患者に ついてプレゼンを行っている。彼女はあんなに若いのに、変わった既往症があって…と述べたところで、別の 患者のところへ呼ばれていった。一人残された私は外来ベッドにうずくまる患者の元に行き、自己紹介を行 った。患者はかっと目を見開き
「えっ、今なんて」
「医師のホニッグマンです」
彼女の頬に一筋の涙が流れた。
「どうかなさいましたか?」
「先生に助けてもらったんですよ!!」
二年前のあの子だった。彼女はその後のことについて話してくれた。手術後の体調のこと。新しい仕事を見 つけたこと(健康保険がついている!)。私は呆気にとられて彼女の手を握るほかなかったが、すぐに嬉し くなってもらい泣きしてしまった。医者になってよかったと思う瞬間である。しかし、同時に思いをめぐら せもするのだ。もし真の「ヒーローたち」がいなかったら、彼女はどうなっていたか。CTで右冠状動脈起始異常を見抜いた放射線診断科医師。適切な助言をくれた循環器科医師。素晴らしい手術を行った外科チーム。彼らがいなければ、今頃彼女は単なる統計上の「心臓突然死」になってしまっていたに違いない。現在わが国では医療保険制度に関する議論が喧しいが、医療費が高騰し無保険者が増えたら、ジョーンズさんのようなケースを救命するのは難しくなるだろう。保険制度について考えるとき、我々は常に患者のためやるべきことをやる、ということを唯一の道しるべとしなければならない。
コメント一覧
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謎の快楽自転車・サドルマンについて考察しようぜ
意味不明な点がいくつかあるよな~
ただの駄文かよ
快楽自転車
サドルマン
欲しい
変な病気なんだろ?
・ホニッグマンさんは60歳近い
・患者が思うほど、医者は患者のことを覚えていない
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail.php?qid=1314397903
名前だけがすっぱり頭から抜けてることがあるな
きつい作業を行ったり、心拍数が上がったりすると心臓に行く血流が途絶えてしまう可能性があります」
少しのポーズ‐私には何時間にも感じられた!
「…どういう意味ですか」患者の声は震えていた。
患者の心拍数が上がっていくのが想像できる。
心臓に行く血流が途絶えて、患者は死んだ。
そういえばサドルマンって何の仕事してるんだろうな?
サドル