293 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:03:51 ID:R8iTcSEp
バイク便の同僚だったTは一言で言えば地味な男だった。バイク好きの若い男が寄り集まってする話といえばバイクの話か女の話なっかりだったけど、
Tはガヤガヤとうるさいそんな輪の中からいつも一歩引いた位置にいて、
微笑みながらその楽しげな雰囲気を見守っている。そんな男だった。
走りの方も至って地味で、当時バイク便といえば、
信号が変わるや否や猛ダッシュで加速して車線を縫うように走るのが普通だったが、
Tは信号待ちで車の流れが止まるまでは決してすり抜けをしようとはせず、速度やブレーキ、
その他色々な面でおとなしい、まるで教習所の教官のような走りだった。
「あぶないよ。何があるかわからないし…。気をつけないと。」
そんなTのことを小バカにするやつも少なくなく、からかわれることもしばしばだったけど、
Tは怒るどころか心配そうにそう言うのだった。
Tのバイクは社用車のVTZで、いつもピカピカに磨かれていた。
自分のバイクは持っていなかった。
そんなTと俺は、会えばあいさつを交わす、その程度の仲だったんだけど、
ウチの会社にある新規の荷主がついたことで、俺とTの仲は急に深まっていったんだ。
「悪いけど頼むわ。」
俺のアパートから会社へ向かう途中にあるデザイン事務所から印刷工場へと原稿を運ぶその仕事は、
ウチの会社には珍しい早朝引取りの仕事だった。
通常の始業時間までに一仕事終えて出勤することになる俺に主任はそう言った。
悪い話じゃなかった。
なんといっても稼げるし、皆より少し先に出社してお茶の一杯でも飲んで仕事に望むのは悪くない。
そうしてその仕事が始まる最初の日、始業時間より三十分も前に会社に着いた俺が見たものは、
ガレージでVTZを洗っているTの姿だった。
294 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:04:35 ID:R8iTcSEp
「毎日早く来て単車洗ってるんですか?」 「え?いや今日は時間があるから…。」
俺の姿に少し驚いたふうだったTはそう答えた。聞けば、Tは毎日、皆よりずっと早くに出社して
自分のバイクを点検し、さらに時間が余ったら洗車もしてから仕事に望んでいるのだという。
生真面目にも程があるかもしれないが、これがプロとして本来の姿かもしれないと今でも思う。
その日から、皆が出てきてガヤガヤしだすまでホンの20分ぐらいの間、俺とTは話をするようになった。
驚いたことに、ずっと年上だと思っていたTは俺と同い年で、
さらに結婚までしていて春には子供も生まれるという。
本当に控えめな男だった。
その当時といえば、矢継ぎ早にモデルチェンジを繰り返すレーサーレプリカが俺達若者には
人気だったが、こんなのどう?とTに聞いてみても「いやあ…派手だよね。」と苦笑するだけだった。
そんな控えめで生真面目なTとの会話は、田舎から出てきた俺にとって心地の良いものだった。
俺は始業までのその時間をとても大切に思うようになり、Tとの仲も次第に深まっていった。
295 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:05:29 ID:R8iTcSEp
「ジムカーナ、やってみない?」 先輩にそう誘われたのは例の早朝仕事が始まって一ヶ月ぐらいした時だったと思う。
「女の子と遊ぶよりたのしいよお。」
その頃少しずつ巷に浸透しだしたこの競技を、安全運転技術講習と銘打って各メーカーが催すことが
増えてきたころだった。女の子と遊ぶより楽しいかどうかははなはだ疑問だったが、興味はあったし、
俺とTは参加することにした。
太っ腹にも社用車での参加がOKで、まあ多少の転倒は大目にみるとのことだった。
「でも壊すなよ。」
主任から横槍が入った。
そして当日、使われていない廃教習所をパイロンで仕切ったコースに
数名のインストラクターを迎えてイベントは始まった。
「女の子と遊ぶより…」と言っていた先輩がちゃっかり女の子を乗せてきていたりして、
なんだかなあという感じだったが、皆一日中バイクに乗っているだけあって
それなりに自信がある奴ばかり、意気込んで挑むことになった。
296 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:06:23 ID:R8iTcSEp
「あれ、あれれ。」 お約束だが、この地味な競技はやってみるととてつもなく難しかった。
かなり甘めのコースになっていたはずだが、そこここでパイロンを倒したり、
コースをオーバーしたり、まともに走りきるには止まるような速度でよちよち走る
しかなく、インストラクターのように華麗な走りなんてとてもという感じだった。
そんなこんなで午前中は終わり、午後から一人ずつタイムアタックが行われる事になった。
俺はといえば、スラロームで派手な滑りゴケをやらかしてヤンヤの喝采を浴びる体たらくだった。
Tの出走順だった。
相変わらず午前中は地味に過ごしていて、ハッキリ言って誰も注目してなかった。
あそこは2速でとか、リアブレーキがどうとか、
そういう自分達の走りについて偉そうに語り合っているだけで、誰もTのことを見ていなかった。
297 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:07:16 ID:R8iTcSEp
「ヴァン!」 いきなり鳴り響いた甲高いエンジン音に誰もが振り向いた。
地面にブラックマークを残して、
リアサスを深く沈めたTのVTZが猛然と加速していくところだった。
最初のパイロンに向かって、
悲鳴をあげるフロントタイヤをいなしながら、フォークをフルダイブさせてブレーキング。
ペタリとバイクを寝かせてパイロンをクリアし、
次のセクションへ向けて猛然と加速していくTとVTZ。
「・・・・」
俺達はポカーンと口をあけたままTとVTZを見ているしかなかった。
「え…どゆこと?」
うろたえている間にも、Tはエンジン音をリズミカルに響かせながらセクションを次々にクリアしていく。
何がなんだかわからなかった。
Tが叩き出したタイムは、インストラクターが出したタイムと一秒ぐらいしか違わなかった。
「いやーTさんと私の差はバイクの差だけですね。脱帽です。」
インストラクターはそう言って甲を脱いだ。
確かに。
完全ノーマルのTのVTZに比べて、
インストラクターのバイクはあきれるほどフォークを突き出して
キャスターを立てた完全ジムカーナ仕様のブロス600。
もしかしたらTの方が早いんでは…と失礼ながら思ってしまっても仕方のない状況だった。
Tは皆に質問攻めに遭っていた。
「いやあ…少しやったことあるんですよ…。」
Tは頭を掻きながら要領を得ない回答を繰り返していた。
298 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:08:24 ID:R8iTcSEp
翌日、俺は勇んで仕事に出かけた。聞きたいことは山ほどあった。 Tの口から語られた、Tのこれまでの人生は意外なものだった。
小さな頃から親に薦められてポケバイを始め、ミニバイクへとステップした後、
最終的にはTZ125で地方選を戦うところまでいったのだという。
さらに、免許は持っていたものの、
路上に出たのは二十歳を過ぎてからで、街中は怖くて仕方ないと言った。
「え?あんなレースのほうが怖いんじゃないの?」
俺はありきたりの疑問を口にした。
Tによれば、それなりの技量と良識をもったライダーがルールに則って行うレースよりも、
どんな奴が何をするかわからない街中の方が怖いのだという。
にわかには理解しがたい話ではあったが、
Tのおとなしい走りもそういうちゃんとした理由があったのだと納得できる部分もあった。
質問ついでに、俺は前から思っていた疑問を口にした。
「ねえ、Tにはどうしてスパーダ回ってこないの?」
Tは同い年だが俺よりずっと古株で、俺にスパーダが回ってきているのにTには旧式のVTZ、
おかしな話だった。
299 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:09:07 ID:R8iTcSEp
「あ…えっとね、乗り換えるように会社に言われてたんだけど、断ったんだ。」 Tはなんだか含みのある言い方をした。
「どうして?スパーダ気に入らないの?」
「あ、違う違う、えっと、そのね、買おうと思って…。」
Tは照れくさそうに頭を掻いた。
「最初にスパーダ来た日にね、みんなで乗ったじゃない?
あの日僕も乗ったんだけど、ああいいな、欲しいなって思って。
それで、せっかくだから楽しみにとっておきたくて」
「楽しみ?」
「あのね、初めてなんだ、バイク買うの、
ポケバイとミニバイクは親が買ってくれたし、TZはチームがヤマハの
系列だったから、だから、自分で選んでバイク買うの初めてなんだ。」
赤面しながらそう語るTを俺はポカーンと見つめた。
あれ程のテクニックを持っていて、憧れのレースの世界からやって来たTが、
実は自分のバイクを持ったことがない。
そのことも衝撃だったが、そんなTが初めて選ぶバイクがスパーダ。
俺はこみ上げる嬉しさを隠せずに言った。
「え?ええと、でも、物足りなくない?Tぐらい乗れるんだったら、もっとこんなのとか…。」
俺は転がしてあったバイク雑誌の表紙を指さして言った。VFRやFZRが表紙に踊っていた。
「うん。かっこいいけどね。街には街のバイクがあると思うんだ。」
Tはこともなげにそう言った。俺はなんだか嬉しかった。
300 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:10:14 ID:R8iTcSEp
「あ、じゃあ次のジムカーナはスパーダだね。インストラクターに勝っちゃうんじゃない?」 Tがスパーダでジムカーナに出る。それはささやかなレーシングファンタジーだった。
スポーツに「たられば」話は無意味でしかないけど、それでも妄想してしまうのが人情ってもんだ。
あの時もっと戦闘力の高いバイクにTが乗っていれば…
俺達の間でそれは常に盛り上がる話のネタで、実際、
次のジムカーナには誰かのレプリカにTを乗せようという計画が密かに進んでいたほどだった。
「でさ、どうなの?自信ある?」
興奮してそう聞く俺に、Tは困ったように答えた。
「うーん、やってみないとわからないよね。でもあの人達、本当に上手いよ。それに、」
一度黙って、少し間をおいてから
「あの時も本気じゃなかったと思うんだ。」
おや?俺はTの目に、少しだけだけど闘志を見たような気がした。
意外と熱い面も持ち合わせているんだなと俺はそのときそう思った。
だけど、本当に残念なことに、そのファンタジーは実現しないままになってしまう。
思いもかけない悪夢のような災難が、Tを襲うことになるからだった。
それは、春が来てTに待望の赤ちゃんが生まれ、
Tと可愛い奥さんにささやかなお祝いをした嬉しい春が過ぎて、
じめじめした梅雨の空が少しずつやってこようとしている6月の初めのことだった。
301 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:10:58 ID:R8iTcSEp
「危ないな…。」 Tはそのとき最後の仕事を終えて会社に戻るところだった。流れの速い高架道路の左車線。
前を走る紺色のBMWの様子がおかしかった。車線こそはみ出さないものの、フラフラと方向が
定まらず、前車との間隔に関わらずに速度が上下して、居眠りかもしれなかった。
「電話か…。」
リアガラス越しに見える運転者の右手に受話器らしきものが握られ、
頭がときおりカタカタと震える。
当時はまだ珍しかった自動車電話で談笑しているらしかった。
早めに前に出てしまったほうがいい。
Tはそう判断した。幸いこの車線はまもなく側道に降りていく。
そしたら速度も落ちるだろうし、
何よりその側道は幅が広く、左側に軽自動車一台分ほどの余裕がある。
側道にさしかかり、車の流れが遅くなった。
「よし。」
TはVTZのフロントをBMWの左側にすべりこませた。
「すり抜けは車の流れが信号で止まってから」
その日、Tは自分に課していたルールをほんの少し破ってしまった。
302 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 22:11:55 ID:R8iTcSEp
「わざとぶつけたようにしか見えなかった。」 警察が探し出した目撃者の一人だったタクシーの運転手は言った。
TがBMWの脇に入った途端、BMWは急激に進路を変え、TとVTZを側壁に叩きつけた。
「!!!!」
突然側壁に叩きつけられたTは、左座席に座り、ハンドルにしがみつく若い男の顔を見た。
「ハンドルを戻せ!」
言葉にならなかったかもしれないが、確かにそう叫んだとTは後に言った。
が、パニックで硬直した男は、その姿勢で固まったままTを側壁に押しつけ続けた。
全身に激痛が走り、意識が薄れていく。
真っ赤な血をほとばしらせながら、ガリガリとコンクリートに削られる自分の左足を見ながら、
Tは気を失った。
真相はこうだった。
あろうことか電話で談笑しながら男は空調のスイッチを操作しようと左手を伸ばし、
結果として両手をハンドルから離してしまう。
さらには身をかがめた時に手放しのハンドルに肩が当たり、大きく左にハンドルを切ってしまう。
それでもTに気付いた時に減速なりハンドルを戻すなりすれば、
あるいはTの怪我はそんなにひどくならなかったかもしれない。
しかし、男は肩でハンドルを押した無様な格好のまま硬直し、Tを側壁に押し付け続けたのだった。
馬鹿げている。そうとしか言いようがなかった。
303 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:15:35 ID:R8iTcSEp
「左下肢切断」 それがTに施された「治療」だった。Tの膝から下は永遠に失われてしまったんだ。
間もなくして、初めての示談の席で出向いた社長と主任を前に、
男は父親には黙っていてくれの一点張りで、だだの一言も謝罪の言葉を発しなかった。
業を煮やした社長は男をしたたかに殴りつけ、うろたえながら
警察沙汰になったら示談がと耳打ちする主任を尻目に、床に這いつくばる男に向かってこう言った。
「警察ぅ??誰にも言えねーよあ!オトーチャンにバレちまうもんな!」
虫けらを見るような目だったと主任は言った。
激慌しているように見えて、そういう計算高さは社長の怖いところだとも。
その翌日、顔をぱんぱんに腫らして、
父親だという年配の男に首根っこを引っつかまれて、Tの入院先に男は謝罪に訪れた。
とある企業の社長だという父親は、息子の不始末に深々と頭を下げた。
どこまでも無様なその男は、社長に殴られたことを父親に泣きつき、
結果として父の逆鱗に触れることになったのだった。
304 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:19:08 ID:R8iTcSEp
しかしいくら謝られたところで、Tの脚が戻るわけじゃなかった。唯一の救いは、今回の件に関して社長が出来るだけの施しをTにしたことだった。
バイクに乗れないTを内勤の配車係として新たに採用し、
自身が保有する不動産の中から手頃なマンションの一室をTに格安で貸し出すことにした。
「おまえらライダーほど頑張りがすぐに反映したりはしないが、マジメにやれば確実に昇給する。
Tなら大丈夫だ」
と主任は言った。
今回の件で支払われる慰謝料と障害年金、そして社長の施しによって、
少なくともTと大切な家族が路頭に迷うことだけはなさそうだった。
そうは言っても、このことが俺達に与えた衝撃はとてつもなく大きかった。
「Tでさえも、交通事故のリスクをゼロにはできなかった」
考えてみたら当たり前のことだが、特に俺にはショックだった。
あれほど慎重で、しかも確実なテクニックを持ったTでさえも…。
俺は次第に疑心暗鬼になり、街中でバイクに乗ることが怖くなった。
頼りない筏でふらふらと波間をさまようような不安がどんどん大きくなっていき、
Tが退院して、痛々しい姿を目の当たりにすることでそれはさらに大きくなった。
もう限界だった。俺は会社を辞める決心をした。
305 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:22:31 ID:R8iTcSEp
「あ、下まで送っていくよ。」 挨拶を済ませ、最後の給料を受け取った俺に、Tはそう言いながらひょっこりと立ち上がった。
松葉杖をつきながら歩くTの歩調に合わせて、俺達はゆっくりと歩いた。
「もう少ししたら義足ができてくるから、そうしたら杖無しでも歩けるみたい。」
でもバイクは乗れないよな…そう言いかけて俺は言葉を飲み込んだ。当たり前だ。
「じゃ行くわ」
ヘルメットを被りながら俺は言った。切なくてTのほうをまともに見れない。
「うん。あの、気をつけてね。」
お前もなと言いかけて俺はまた言葉を飲み込む。
「ああ。元気でな。」
街路樹に寄りかかって、いつまでも手を振るTの姿が、ミラーの中で小さくなっていく。
すまないT。俺は弱虫だ。
一番つらいのはお前のはずなのに、こうして俺が去れば、お前が傷つくのはわかっているのに、
俺はお前の前から逃げようとしている。
俺はヘルメットの中でわんわん泣いた。
それから俺はバイクを売り払い、
手元に残ったわずかな金を自転車に替え、次に決まっていた倉庫作業の仕事への通勤に使った。
街を行くバイクをどこか縁遠い存在として眺めるようになり、20年近くが過ぎた。
306 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:25:16 ID:R8iTcSEp
バイクのことを考えると、テンションがあがってしまって夜も眠れない。 そんな青春を過ごした俺がそんなふうになるなんて思いもしなかった。
今こうして生きているんだから、それは間違いではなかったんだろうと、そう考えることもあるけど。
「会社たたむことになってな、スパーダ一台要らないか?」
主任から電話をもらったあの夜、ひとしきり思い出話に花が咲いた後、俺は思い切って聞いた。
「あの主任…Tは、Tはまだ会社に居ますか?」
「ん?おお、アイツ配車課長だぞ、
ええと、さっきまでいたんだけどなあ…おーい!Tいないかなー?」
遠くで女性の声がした。
「あ、さっきバイクの音がしたんで出てったと思いまーす。」
え?
「あ、さっきバイクの音がしたんで出てったと思いまーす。」
ええええ!?
「おーすまん。さっきまでいたんだけ…」
主任の言葉をさえぎって俺は聞いた
「あの、あの主任、Tは、Tはバイクに乗ってるんですか?」
307 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:28:15 ID:R8iTcSEp
「ん?おお、最近なんだけどな、でっかいスクーターあるだろ?最近流行の。あれ、俺も知らなかったんだけど、試験受けて合格すれば義足でも乗れるのな。
そんでヤマハの、何つったっけ?でっかいの。」
「T-MAXですよ。」
隣で若い男の声がした。
「おお、それそれ、500だか600だかのやつ。あれに乗ってさ。
そんでやっぱアイツ上手いのな。
ついこないだジムカーナに出てな、えーと、なんとかってクラスに一発で上がったんだよな。」
「C1クラスですよ。」
また若い男。
「おお、それそれC1。なかなかなれないんだってな。」
Tは会社がつぶれた後、大手のバイク便会社の配車係に内定していること、
ジムカーナの結果によってどこかナメられがちだったTは
若手の羨望を一心に集めるようになったことなんかを主任は熱心に語ってくれたが、
正直、上の空だった。
308 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:32:22 ID:R8iTcSEp
「ははっ、あはははは、あっはははは!」 受話器を置いてから、俺は声を上げて笑った。こんなに大声で笑うのは久しぶりだ。
心配して嫁が様子を見に来たが、かまうもんか。なんだったらこれから夜の街に繰り出して、
誰彼構わずにこのことを吹いてまわりたいぐらいだ。
何だって?スクーター?T-MAXだって?
そうか、そうなのかT。
ジムカーナで、矢のように疾駆するお前とT-MAXを見て、
ご自慢のスーパースポーツとやらで乗りつけた若造どもが、口をアングリあけて見ているんだ。
街中で、流れにピタリと沿って走るお前の脇を、
バカスカうるさい半キャップの馬鹿がこれ見よがしに抜いていっても、優しいお前は怒るどころか、
心配そうな目でそいつが走り去るのを見ているんだ。事故に遭いやしないかなって。
そうだな?そうなんだろT。
俺は馬鹿だ。本当に馬鹿だ。
どうしてあのとき、お前が二度とバイクに乗れないなんて思い込んだんだ。
そうだよ。
お前なら足の一本ぐらい無かったって、誰よりも上手く乗れるさ。決まってるじゃないか。
なあT。
俺は今でも、どんな顔してお前に会ったらいいかわかんねーよ。俺のことなんて覚えてないかもな。
だけどもう一度、あのとき逃げたバイクに、もう一度乗ってみようと思う。
そんな俺が、もう一度バイクに乗るなら、それはやっぱりスパーダしかない。
お前だってそう思うだろ?
309 :バイク便の思い出:2010/03/12(金) 23:38:53 ID:R8iTcSEp
長文読んでくれた人、本当にありがとう。俺の戯言はこれで終わりです。 俺みたいにスパーダが出た当時に現役で乗っていた人なら、
この地味なバイクが本当に愛され続けたことが今なら実感できると思う。
バブルの狂乱に明け暮れた派手な時代に、ひっそりと産み落とされた良心。
スパーダはそんなバイクだと思う。
何かと批判されがちなあの時代の喧騒、それでも誠実に生きようとした人達。
俺がスパーダを見るとき、そういったことを思い出さずにはいられないんだな。
コメント一覧
私がTですわ。
なげえ
氏ね
授業も残りわずかだけどこんなライダーになるために教習所頑張る
その長さを感じさせない傑作だったな。
バイクなんて乗ったことない俺が感動するくらいだから
バイク乗りにはたまらん話なんだろう。
寺生まれの話かと思ったのに感涙。
かっこいいなー
改めてそう思いました
改めてそう思いました
気をつける事にしたい。
自戒
まぁ純粋にいい話を見ちゃうと、斜に構えて※欄でつい本心と違う事を書いちゃったりするんだけど、
この物語のTはそれを見守って微笑んでそうな気がする。
こんぐらい読み応えがある方がいいんだから
他の奴らも長いの投下しろや
しょうもな
しかしなんだ…
事故の原因が女だったらお前ら叩くんだろうな
ゼルビスが7m先へすっ飛んでいった。
幸い打撲程度で済んだが、暫くは後ろから来る車が怖かった。
感動した
そんなに面白くないよ
いや本当に
スパーダはバイク便の方達の御用達ですもんね。
俺も安全運転心がけるぞ
伝説の魔剣士がどうしたって?
ってもどうせ泣ける系コピペだから、※欄に迎合して放置しとくんだろうけど。
見んなよアホw
別にドラマはいらんのだよ
最後まで読んでるじゃねえか
安全運転しようって気持ちになる。
教習所の教本に載せたらいいのに。
ほぼすべてのバイク便会社は社員何か使い捨てなんだぞ