コピペ運動会

小学6年の時、保護者参観の授業中に俺は担任の先生を間違えて「お母さん」と
呼んでしまった事がある。当然クラスの奴らに笑われ、来ていた親達からも笑われ、
リアルおかんには一番笑われた。

俺の地元は結構な田舎で、1学年で1クラスしかなかった。同級生は俺を入れて全員で21人。
そして担任は小学2年からずっと同じ吉原先生だった。やんちゃ坊主も多くて
テレビとかで見る大家族を更にパワーアップさせた感じ。
そんな環境の中でリアルおかんと同じくらい一緒の時間を先生と過ごしていたわけだから
「お母さん」と呼んでしまうのは仕方ない話だと思うけど、時は動乱の戦国小学時代、
トイレで大をするだけで総大将が入れ替わるとされた時代なので、当然俺の失言は餌食となり
「お母さん事件」はしばらく尾を引く事となってしまった。

それから時は流れ、今から八年前の正月、24歳の頃に小学校の同窓会を開く事になった。
もちろん吉原先生も呼んで皆で盛り上がった。男子も女子もみんな吉原先生が好きだったから
先生を奪い合いながらあっちこっちで小学校の思い出話が咲き乱れて大家族の宴会状態。
そこで、地元から出ていった奴を毎年帰省させる格好のネタになるぞと俺たち地元組は結託し、
もう毎年やろうぜってその場で決めて、それから毎年、正月は必ず同窓会をする事になった。

そんな記念すべき第一回目の同窓会、吉原先生が皆にメッセージだと言って一人一人に
手紙を渡し「恥ずかしいから家に帰って読んでね」と言い同窓会はお開きになった。
ちなみに俺の手紙の中身は3行しか書かれてなくて、俺の手紙だけ短いんじゃね？と、ちょっぴり
嫉妬心に駆られて後日友達に聞いたらみんな公平に3行だったから安心したのを覚えている。


まぁ…、涙もろい奴を巻き添えにしてやろうと思って書いてるから勘の良い人はピンとくるかも
しれないけど、その吉原先生がこの前亡くなったんだよ。享年43歳。合掌。もう全力で合掌。
どうしても仕事で同窓会に一度も参加できなかった保彦って奴がいたんだけど、葬儀には
駆けつける事が出来て、先生の旦那さんから例の手紙を渡されて、読んだ後に泣き崩れてた。

吉原先生は、あの同窓会で渡せなかった残りの手紙を大切に持ち続けていて、いつか全員に
渡したいと願っていたこと、今年は「二人に渡せたから、あとは保彦だけなんだ」と嬉しそうに
話していたことなどを旦那さんから聞いた。
それだけ女房にとって君達は大切な存在だったと。だから今日、最後の手紙を渡す事ができて
女房もきっと天国で喜んでる、ありがとうと、保彦をオーバーキルさせてた。


それでね、俺の手紙は何て書いてあったっけなぁと、葬儀の日から探し続けていたんだけど、
さっきようやく見つけて、決壊してしまった涙腺ダムを放ったらかしながら、今これを書いてる。

「太一が私のことをお母さんって呼んだの覚えてる？あの時は嬉しかったよ。
　お母さんの新米教師生活は、皆と過ごせたおかげで本当に楽しい毎日でした。
　21人の我が子達に囲まれたとっても幸せな日々。私の大切な思い出！」

うん、やっぱり俺の「おかん」は二人だわ。