ありきたりな救出の物語 by ロリベ

コピペ投稿者:名無しさん  投稿者ID:YgmEvZMX
コピペ投稿日時:
天空まで届くかのような長い塔を視界に捉え、俺は感慨にも似た想いを抱かずにはいられなかった。
 これまで本当に長かった。とある王国に仕えていた俺が、王の命令で闇の魔法使いにさらわれた姫の救出の旅にでたのは、もう三年も前のことだった。
 自分でいうのも何ではあるが、幾多の試練を乗り越えてきたのである。
 まず、第一の試練は食事だった。王国にいた時には、きちんと定められた時間に食事を与えられていた。しかし、旅に出てしまっては、そうはいかない。自分で野生の動物を狩るか、途中の村の住人に恵んで貰わなければならなかったのだ。
 それから第二の試練は、闇の魔法使いの居所を探ることだった。事情を知っている王国の人間は誰も分からないようだったし、旅の途中で出会う人に訊くことも不可能だったのだ。自らの嗅覚を信じるしかなかった。
 少しずつ進んできた道のりではあったが、ようやく辿りついた。すっかり老け込んでしまった自分の体を見て、俺は長かった歳月を実感した。
 ゆっくりと右肢を前に踏み出し、俺は塔への道を歩きはじめた。
「これは困った」
 塔の真ん前まで来て、俺は思わぬ試練に遭遇してしまった。塔の扉が開かないのである。
「鍵でもかけているのか。用心深いやつめ」
 口の中で罵りの声を上げ、俺は何度も塔の扉に体当たりをする。
 ドスン、ドスン。
「駄目だ。ビクともしない」
 痛む身体に顔をしかめ、俺は落胆の色を隠せなかった。なんということだろう。せっかくここまで来たというのに、ただの鍵に阻まれてしまうとは!
「どうすればいい?」
 このまま尻尾を巻いて逃げ帰ってしまっては、俺を信頼してくれた王に合わせる顔がない。
 俺は困り果てた。だが、解決策を考えて塔の前で座り込んでいると、ふいに門の扉が開き始めた。
「しめたぞ!」
 これで命令を果たす事ができる。俺は喜びのあまりに叫んだ。
 しかし、いきなり扉が開きだしたものだから、俺は開いた扉に頭をぶつけてしまった。
 ぶつけた頭を右肢でさすりながら、俺は扉の内側に鋭い視線をおくった。
「おやおや。やかましいと思ったら、これは珍しい客じゃないか」
 そこには灰色のローブを着た老人が立っていた。口許に邪悪な笑みを湛えながら、何故か俺に親しげな声で話しかけてくる。
「こんな辺鄙な場所まで来て、何の用なんだい?」
「貴様、しらばっくれる気か! さらった姫を返せ!」
 俺が眼光鋭く吠えたててやると、奴は何が面白いのか不敵に笑った。
「何を言いたいのか分からないねえ。まあいいさ。せっかく来たんだから、中にお入りよ」
 これは罠か? 俺は一瞬疑った。しかし、臆してなどいられなかった。勇気をもって前に踏み出し、奴の後について行った。
 周囲に注意深い視線を走らせながら、俺は長い階段を延々と登っていく。塔の見かけに違わず、やはり相当に時間がかかった。
 一時間も登った頃だろうか。奴はひとつの部屋の前で唐突に立ち止まった。
「ここに姫がいるのか?」
 俺が喚くと、奴は独り言のように呟いた。
「まあ、あの娘の気晴らしにはなるかね」
 ゆっくりと扉が開かれていく。その部屋の中には、美しい女性がいて、
「姫様!」
 と、俺は声を震わせて鳴いた。やっと会うことができた。王に、「お前が助けてくれないものかな」と言われた日から長かった。
「お前の遊び相手を連れてきたよ」
 奴は甘ったるい声で姫に話しかけている。もはや、こいつに用はなかった。俺は正義の牙を振りかざして、遠慮なく奴に跳びかかった。
 奴も必死に抵抗したが、俺はついに奴を階段から突き落としてやった。ゴロゴロと下まで転がり落ちていく。助かることはあるまい。
「カイン、カインなの?」
 一部始終を見ていた姫様が、驚いたように目を見開いていた。そして、意外そうに言う。
「まさか騎士ではなく犬に助けられるとは思わなかったわ。でも、ありがとうね、カイン」
 姫様に褒められて、俺は尻尾を振って喜んだ。
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コメント一覧

1  名前::2011/08/13(土) 13:49:21  ID:c7R16QH4 携帯からの投稿
わんわんかわいい
18 イイ!コメント
2  名前::2011/08/13(土) 13:50:54  ID:GbrjLnx5 携帯からの投稿
ホーリーランス口に加えてジャンプして戦う犬が脳内再生されました
9 イイ!コメント
3  名前::2011/08/13(土) 13:53:11  ID:w6fNIEEW PCからの投稿
ちょっとしょうきにもどってくる
6 イイ!コメント
4  名前::2011/08/13(土) 13:59:56  ID:wcmvRMHn スマートフォンからの投稿
しなんか変だなと思うところがいくつかあったけど(
右四
1 イイ!コメント
5  名前::2011/08/13(土) 14:02:25  ID:wsKbxhlY スマートフォンからの投稿
私は犬ではない 断じて犬ではないのだ
0 イイ!コメント
6  名前::2011/08/13(土) 14:14:06  ID:wgPxvmWW 携帯からの投稿
その頃、セシルはローザと一緒にベッドで寝ていた。
0 イイ!コメント
7  名前::2011/08/13(土) 14:44:29  ID:8H9CaG53 PCからの投稿
そのベッドの下にエッジが潜り込もうとすると、そこにはカインがいたのである。
リディアいわく「あんたってば本当にエッヂなんだから」
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8  名前::2011/08/13(土) 15:06:02  ID:g8a/2Kih 携帯からの投稿
我が名はウェルシュ思い出した
0 イイ!コメント
9  名前::2011/08/13(土) 15:47:59  ID:nMleg9cz 携帯からの投稿
八犬伝思い出した
1 イイ!コメント
10  名前::2011/08/13(土) 16:16:12  ID:jcdkPtCu 携帯からの投稿
国王「あてにしてるぜカイン」
カイン「フッ まかせておけ」
0 イイ!コメント
11  名前::2011/08/13(土) 16:34:09  ID:fwnNWZYT 携帯からの投稿
どう見てもコロマル
0 イイ!コメント
12  名前::2011/08/13(土) 18:05:32  ID:qMNbTRzp スマートフォンからの投稿
カインならジャンプして扉越えろよ
1 イイ!コメント
13  名前::2011/08/13(土) 18:39:29  ID:RfTyqDn6 携帯からの投稿
米9
八房がどうかしたかね
0 イイ!コメント
14  名前::2011/08/13(土) 20:08:40  ID:VGOdvRDK 携帯からの投稿
※9※13

つまり獣姦ルートか
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15  名前::2011/08/13(土) 20:42:28  ID:UXFYsIa8 携帯からの投稿
面白いけど、嗅覚とか3年で老け込んだとか伏線出すのが早すぎてすぐ気付いてしまった。ショートショートの広場に同じオチの話があるけどそっちのほうが出来がいいな。
1 イイ!コメント
16  名前::2011/08/14(日) 22:27:05  ID:N4ds1tpv 携帯からの投稿
※15
お前が普段どんなの読んでるのか凄く気になった
俺馬鹿だから嗅覚とか3年で老け込んだとかじゃ分からなかったよ
3 イイ!コメント
17  名前::2011/08/21(日) 23:26:38  ID:T0Y7oQa9 携帯からの投稿
(;∀;)イイハナシダナー
0 イイ!コメント
 

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