コピペ運動会

駅のﾎｰﾑが急にざわつき始めた｡
見ると重い荷物を背負った老婆が､線路上に落下している｡
――なぜ､誰も助けようとしない!そんな安っぽい同義的怒りとは無関係に､俺は線路に飛び降りていた｡
老婆に駆け寄る｡踏み切りが鳴り始めた｡
｢さあ､婆さんもう大丈夫だぞ｡｣
俺は荷物ごと､ぐいと老婆を持ち上げ――予想以上に重い――ﾎｰﾑの上に押し出す｡
ﾌﾟｧｱｱｱｱｧｧﾝ!と､列車の警笛｡
さて､もたもたしてはいられない｡俺も登らなければ――と上を向いて俺は愕然とした｡
ﾎｰﾑ上は白線を越えて身を乗り出した野次馬たちで寿司詰めの状態であった｡
皆一様に､何かを期待するような目で俺を見ていた｡既に携帯電話のｶﾒﾗを構えている者もいる｡
全く､なんて時代だ――｡
明らかなのは､ﾎｰﾑの上には俺がよじ登るｽﾍﾟｰｽも､俺を助けようとする者もいないと言うことだ｡
俺は覚悟を決め､列車が来る方向をに体を向ける｡
普通電車ならば､受身をうまく取れば問題はない｡
それが急行ならば･･･かなりのﾀﾞﾒｰｼﾞを受けてしまうだろう｡
しかし､列車の前面上部のﾌﾟﾚｰﾄの表示は｢特急｣であった｡

激突｡
全身の骨が破砕し｡内臓という内臓がことごとく破裂する｡
――脳髄だけは保守せねば!
腕を交差させ頭部を守るも､衝撃でその腕自体が千切れ飛ぶ｡
胴体が車体の下へ引きずり込まれ､俺は無数の肉片となった｡


後に､ある鉄道警察官――ここでは名を伏せる――が､この人身事故について述懐する｡
ﾎｰﾑに居合わせた事故の目撃者の何人かの証言に､共通の､異常な内容のものが含まれていたという｡
それは､ﾎｰﾑ上に跳ね上げられた被害者のちぎれた右腕部が｢勝手に動き｣｢携帯を操作し｣｢ﾒｰﾙを打った｣
というものであった｡
『体調不良により､しばらくお休みいただきます 荻窪店主』と｡
結局､この奇妙な調書の内容については､惨状を目の当たりにしｼｮｯｸ状態にあった目撃者による
見間違いであろうということになり､運輸安全委員会への報告は行われなった｡