偽浪人についたコメント

43  名前::2010/04/09(金) 21:43:45  ID:2lqEA0N0 PCからの投稿
ここの下宿は私立学校の医学生と法学生とで持ちきっていた。長い間、居着いているような人たちばかりで、菊太郎や糺とも親しかった。中には免状を取りはぐして、頭脳(あたま)
も生活も荒んでしまった三十近い男などが、天上の低い狭い部屋にごろごろして、毎日花を引いたり、碁を打ったりして暮した。夜はぞろぞろ寄席へ押しかけたり、近所の牛肉屋や
蕎麦屋で火を落とすまで酒を飲んだりした。北郭(なか)の事情に詳しい人や、寄席仕込みの芸人などもあった。
「××さんもいつ免状お取りなさるだか。お国のお父さんも、すっかり田地を売っておしまいなすったというのに、そうして毎日毎日茶屋酒ばかり飲んでいちゃ済まないじゃかえ。」
主婦(あるじ)は楊枝を銜えて帳場の方へ上がり込んでくる書生の懦弱な様子を見ると、苦い顔をして言った。
                          『足迹』 徳田秋声
頭も生活も荒む可能性は誰にもあるかもしれん。
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