もしも桃太郎を別の作家が書いたら

コピペ投稿者:komm  投稿者ID:kaW/FpAU
コピペ投稿日時:
「桃太郎」
出張申請書面

■出張申請書■
下記の通り、出張したく申請いたします。

<捺印欄> 婆:爺

<種別> 国内

<費用負担> 当社

<出張者・申請者名> 桃太郎

<出張目的> 鬼(複数件)の矯正及び駆除のため。

<期間> 日帰り。しかし相手先アポが確定できぬため延長・滞在の可能性あり。

<出張地域> 鬼が島

<旅費概算> 徒歩のため¥0(渡航船舶は無料チャーター)。但し同行者への謝礼品制作のため材料費(@3円×予備含む10個=)¥30(見積書別添)…ただし制作は婆の内制による。

<仮払い有無> 有(出金伝票は別添)
※有の場合は別途経理伝票を起票のこと。
※グリーン券・航空券利用の場合は局長以上の決裁印のある理由書を添付のこと。

<宿泊先または緊急連絡先> 複数日となった場合の宿泊先未定。連絡はのろしにて。

<今回取引見込> 各種財宝。ただし物量未確認。

<共同出張者名> 雉1、猿1、犬1(予定)


「桃太郎」
村上春樹

「そんなに鬼は怖いものじゃないんだよ」
彼は言った。彼は桃太郎という名前で、つい先週、鬼が島に行き、
そこで鬼退治をしてきたのだと言う。そう、そんな波乱に満ちた人生もあるのだ。
「やつらは吃音がひどいんだ。だからきっと勘違いされやすい生き物なんじゃないかな」
彼はひどく落ち込んでいた。もしかしたらビールを飲みすぎたのかもしれない。
「飲み物を、水に替えたほうがいい。なんだかひどく酔っ払っちまったみたいだ」僕は言った。
僕がジェイのほうを見ると、ジェイは黙ってうなずき、水の入った大きなグラスを二つ置いた。

「ほんとうにそりゃ悲惨なもんさ。鬼退治ってのは」
彼は、額をバーカウンターにつけたまま、そうつぶやいた。
「相手の話もろくに聞かずに、犬と猿と雉と一緒にぼこぼこしちまうんだ」
僕はうなずき、煙草に火をつけた。何も言わないほうがいい。そんなときもある。
「君はそんな経験があるかい?」ない。僕は黙ったまま、首を横に振る。
「そりゃ賢明だよ。いくら金になるからって、していいことと悪いことはある。そうだろ?」

僕らはこんなやりとりをしながら、ひと夏の間ずっとビールを飲み続けた。
バーの代金は、ぜんぶ彼がはらった。僕が出そうとすると、彼は決まって言った。
「ぜんぶ飲んでなしにしちまいたいんだよ。からからにしちまって、ぜんぶ出しちまいたいんだ」
そう、そんな人生もあるのだ。


「桃太郎」
山本周五郎

「それでそれで?鬼はどうなりましたの?」
ちよのまっすぐな好奇心は桃太郎の瞳を射抜いたが、桃太郎はその視線を眩しそうにそらした。
鬼はいい。力でぶつかれば分かり合えるのだ。至極単純な相手である。しかしこのちよ女ときたらどうも苦手だ。
彼女は桃太郎に英雄を期待している。その期待を裏切るかもしれない恐れは鬼と対峙した時のそれとは比べ物にならなかった。
「いえね、彼らもまあやんごとなき事情があって暴れていたわけであって、その、決して本意ではなかったんですね、ですから」
「ですから?」
ちよは我を忘れて躰をくねらせながら帯の紐をつまんでこすり合わせている。
桃太郎はそのちよの興奮に戸惑いながらも真実を告げねばならないと覚悟を決めた。
「逃がしたのですよ」
「まあ」
その時ちよの目はいっぱいに見開き、彼女の丸い瞳は桃太郎をはっきりと映し出した。
桃太郎は危うく引き込まれそうになった。
そうだ、そうなのだ。俺はちよが好きなのだ。
「どうしてですの?」
そうだ。 ちよを嫁にもらおう。
「盗まれた宝などはどうなさったんですの?」
言わなければならない。
「ちよさん」
「はい」
「不躾ですが」
桃太郎のその改まった態度にちよも何かを感じ取ったらしく急にしおらしくなった。
「何ですの?おっしゃって」
ちよは頬を赤らめて桃太郎の言葉を待っている。
「ちよさん。私は鬼より恐ろしい相手を見つけました。あなたと一緒にいると、私は鬼といるときなんかよりよっぽど落ち着かない」
「まあ、まあ」
「ですから、その、ちよさん、私は次は貴方に・・・」
そう桃太郎が言いかけたときである。
ばしっ、という音がして桃太郎は頬に激痛を覚え、同時に視界を失った。
視力が戻ったときにはもうちよはそこにいなかった。
「ち、ちよさん、どこですか?」
桃太郎はおろおろとちよを探し始める。
桃太郎の新しい戦いが始まったのだ。


「桃太郎」
詠み人知らず

桃もぎて 太郎と名づける 人ごころ


「桃太郎」
司馬遼太郎

桃、という果物がある。
黄河上流の高山地帯で生まれ、古来より大陸では不老長寿の果物として仙人伝説と深い関わりがある果物である。
日本へは弥生時代ごろ伝わり、鎌倉時代においては水菓子と呼ばれ珍重された。
そんな桃が、である。
京の足利家の治世も落ち着きを見せた三代義満の時代、吉備の国(今の岡山県南部)で子を成したというのだ。
「そんなバカな」
と、子を取り上げた当の老夫婦も狼狽したに違いない。
唐天竺ならいざ知らず、この日の本でこのような事が起きたためしなどない。
これはきっと神意に違いないと悟った老夫婦はその子を
「桃太郎」
と名付け、大事に育てた。
ところが、である。
更に老夫婦を驚かす出来事が続いた。
この桃太郎、日に数寸も背が伸びあっという間に成人してしまったのだ。
異常児である。
しかもついこの間まで婆の乳房をまさぐっていたその口で
「鬼を退治に行く」
と言い始めたのだ。
(狂人か)
爺は違う生き物を見るような眼で桃太郎を見た。
「違うのだ」
桃太郎は言う
「爺、考えても見よ。男児たるもの、この世に生を受けて何をすべきか。わしはそればかり考えておる」
そう言うと桃太郎ははにかんだ様に笑った
「まだ子供なのだ」
婆などは桃太郎のその悪戯を告白したような笑顔に安心したが、当の桃太郎は本気であった・・・


「桃太郎」
小林多喜二

「諸君、とうとう来た。我々は待っていた。もうやるしかないのだ」
そう大学生の犬が叫んだ。
「んだ、んだ、やるべえ」
犬を前にしたいくばかの動物たちもその声に応えた。
するとその火に更に油を注ぐように
「心配することはねえ、やっちまいな」
と、先日の鬼との一戦で友人を亡くした猿が勢いよく叫んだ。
しかし今まで部屋の隅で黙っていた雉がその勢いに水をさす。
「でも、でもだなあ。あいつは刀持ってんべ。万一斬られでもしたら・・・」
その一言に一同は少し動揺したが、みなの不安の声をかき消すかのように犬が自信ありげに言った。
「大丈夫だ。次の鬼との一戦は決戦だ。桃太郎の奴に我々に構っている暇はないはずだ。それにどっちにしろこのような労働条件で働かされていては我々はいつかは命を失ってしまう」
その言葉でぼろ屑のようになって死んだ友を思い出した猿は激高した。
「そうだそうだ、やられる前にやっちまえって話なんだ。こいつは早い方がええ」
きび団子一つという薄給で命のやり取りをさせられている桃太郎の部下たちはもう限界だった。
確かに自らきび団子をくれと言ったのは彼らだったかもしれない。
しかしその状況は決して彼らの望んだものではなかった。
今ここに動物たちの桃太郎への闘争が始まろうとしていた。


「桃太郎」
丸谷才一

桃太郎と言ふお話がありますね。
誰でも一度は聞いたことがあらうかと思ひます。
本来ならばですね、私このやうな卑猥な話に触れたくないのですけど、あまりにも有名ですからかうして触れざるを得ない。
かの芥川龍之介も菊池寛も避けて通れなかつたわけですから、私などは言わずもがなですね。
では本題に入りませう。
まあ、そのなんですね。
人間、歳をとつてもその方面の欲望はなかなかなくならない。
いい歳をしているのに子が出来てしまうこともあらうかと思ひます。
しかしながらですね、これは世間では非常に面目を失ふことなんですね。
だから尋常なら拾つたとか貰つたと言ひて世間体を取り繕ふのです。
しかしこの老夫婦は普通と少し違つた。
何故なら子が桃から生まれてきたなどといふ突拍子もない嘘を考えついてしまつたのです。
しかし周りの人たちはそれは純朴な室町時代の人たちですから、容易にそれを信じてしまふのですね。
そうなると老夫婦としては引込みがつかなくなつてしまふのです。
桃から生まれた人間が普通の人間なわけがない。
もうこれは鬼でも退治して貰わないとどうしやうもない。
そう考えてしまふわけですね。
そこで一番迷惑を被るのは桃太郎というふわけです。
桃太郎は半ば無理矢理に家を追ひ出されて鬼退治に向かわされてしまふわけです。
桃太郎とはさういふ物語なのです。
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コメント一覧

1  名前::2013/06/06(木) 19:12:01  ID:5raB335P スマートフォンからの投稿
あとで読もう
17 イイ!コメント
2  名前::2013/06/06(木) 19:20:04  ID:FItBSMF5 PCからの投稿
ひとりで全部考えたのなら評価する
29 イイ!コメント
3  名前::2013/06/06(木) 19:23:23  ID:IHkByzwL PCからの投稿
この手の作品では、毎回司馬遼太郎が一行目で笑える。
25 イイ!コメント
4  名前::2013/06/06(木) 19:46:54  ID:BPxmxpIV 携帯からの投稿
山田悠介バージョンはよ
6 イイ!コメント
5  名前::2013/06/06(木) 19:54:00  ID:NnDNeUnk PCからの投稿
ラノベバージョン恋空バージョンはよ
2 イイ!コメント
6  名前::2013/06/06(木) 20:00:29  ID:K2T/v1J1 PCからの投稿
多喜二のが好きだ
3 イイ!コメント
7  名前::2013/06/06(木) 20:34:10  ID:quyc2EuV 携帯からの投稿
詠み人知らずしかわからんかったが面白かった。
全部分かる人はすげぇなぁ
1 イイ!コメント
8  名前::2013/06/06(木) 20:39:21  ID:gcMBrwPG 携帯からの投稿
司馬遼太郎は相変わらずのデオチでした
0 イイ!コメント
9  名前::2013/06/06(木) 21:14:31  ID:P4eFZ0Wy 携帯からの投稿
鬼ヶ島突入に数週間かける神クオリティは冨樫だけ☆
1 イイ!コメント
10  名前::2013/06/06(木) 22:01:00  ID:G5ziA9ns 携帯からの投稿
ラヴクラフトバージョンはよ
0 イイ!コメント
11  名前::2013/06/06(木) 22:09:18  ID:vvq6qmb1 スマートフォンからの投稿
桃太郎は桃から産まれたんじゃなくて、桃食って若返ったババアからうまれたんだっつーの
0 イイ!コメント
12  名前::2013/06/06(木) 22:13:57  ID:OeNYXn6I PCからの投稿
芥川龍之介の鬼畜桃太郎が好きなんだが・・・
0 イイ!コメント
13  名前::2013/06/06(木) 22:22:05  ID:yuazlrmQ スマートフォンからの投稿
※4

『リアル鬼ヶ島』
0 イイ!コメント
14  名前::2013/06/06(木) 23:04:44  ID:YtGS+td7 スマートフォンからの投稿
大学生の犬w
1 イイ!コメント
15  名前::2013/06/07(金) 00:29:02  ID:M1lYgLig 携帯からの投稿
原田宗典バージョン誰か…

その際、鬼が素朴で可愛いけどウッフンむちむちアッハンぷりぷりな岡山女性で
退治しようとする桃太郎に対し、「いけーん、桃太郎くんいけーん」って岡山弁を発して
「そうなのそうなの僕っていけんの」っていう妄想をし、
鼻の下を3.5ミリ伸ばした桃太郎の描写をお願いします。
0 イイ!コメント
16  名前::2013/06/07(金) 01:13:38  ID:KcTST0OG 携帯からの投稿
松本光司作桃太郎
犬「何だこの鬼!?すげぇ強ぇぞ!」
雉「早くあの物陰まで逃げるんだ!」
鬼「グオオォ!」
べちゃ〜ん
桃太郎「何だ!?鬼が転んだぞ!?」
猿「こんな事も有ろうかとバナナを仕掛けて置いたんだ!」
犬「でかした!」
雉「流石猿だ!」
桃太郎「でもなんで都合良くバナナを?」
猿「聞くな!俺は猿だ!」
3 イイ!コメント
17  名前::2013/06/07(金) 02:50:27  ID:tPmlSVBM PCからの投稿
池上バージョンはよ

0 イイ!コメント
18  名前::2013/06/07(金) 03:16:19  ID:ueOZL1uR PCからの投稿
司馬遼太郎は「余談だが~」で雑学コーナーに
入る系じゃないのか
2 イイ!コメント
19  名前::2013/06/07(金) 04:14:18  ID:mF6h/9WC PCからの投稿
(狂人か)
0 イイ!コメント
20  名前::2013/06/07(金) 06:40:52  ID:+DQUkLSE PCからの投稿
※18
いきなり雑学コーナーから入ることも多いよ
1 イイ!コメント
21  名前::2013/06/07(金) 07:12:41  ID:XxClHie7 携帯からの投稿
丸谷才一がまんまありそうでワラタ
3 イイ!コメント
22  名前::2013/06/07(金) 07:51:24  ID:/W1s03d4 携帯からの投稿
出張申請書からもうダメだった
3 イイ!コメント
23  名前::2013/06/07(金) 07:56:55  ID:K9TLv/+5 携帯からの投稿
清水義範が昔よくこういうネタやってたな
4 イイ!コメント
24  名前::2013/06/07(金) 11:18:05  ID:lFZzOVJq PCからの投稿
田中芳樹バージョンも
0 イイ!コメント
25  名前::2013/06/07(金) 20:35:44  ID:6uZCs95r スマートフォンからの投稿
大学生の犬w
0 イイ!コメント
25  名前::2013/06/07(金) 20:35:44  ID:6uZCs95r スマートフォンからの投稿
大学生の犬w
0 イイ!コメント
 

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