307 :774RR:2012/03/27(火) 00:30:29.04 ID:AYu8j+9a
別スレで書いたので忘れないうちに書いておきます。 泣けるかどうかは微妙です。
それはきっかり一年前の話。
俺は某オクで「車種不明 不動」と書かれて出品されていたバイクを見つけた。
サイドカウルの文字から125ccらしい。
説明には「動きません。 書類等ありません。
当方詳しくないので説明にはお答えできないかもしれません。
また、取りにきていただける方限定でお願いします」とあった。
俺の他に入札者はいなかった。 6000円で落札した。
その週の日曜日、会社のトラックを借りてはるばる伊豆は下田までトラックで2時間半走った。
指定された場所がわからなかったので近所の人に聞いてみると、
「あぁ、あそこの小屋か。 あんたまさかバイクか何か持ってくんかね?」と聞かれた。
「え? はい、バイクを引き取りに来ました。知ってるんですか?」
どうやら、その御仁の話のよると、
地元の人なら知ってるボロい小屋で、中にはずっと昔からオートバイがおいてある。
近所の人は何か出るといって近寄らないらしい。
御仁に教えてもらった通りにgkbrしながら小屋へトラックを走らした。
308 :774RR:2012/03/27(火) 00:30:45.07 ID:AYu8j+9a
すると小屋が見えてきた。海が見える小高い丘の上にある。 小屋の横へ行くとそこには朽ち果てていて、でもどこか貫禄のある黒いオートバイが止まっていた。
そのバイクを観察していると出品者の方が現れた。五分くらいだろうか。
簡単な手続きをすませ、代金を払い、トラックへ積み込む。 うはwww重てぇwww
出品者の話によると、
親戚のような人が三十数年前に大田区からこっちへ越してきたが、その後すぐに亡くなった為、
土地ごと譲り受けたが面倒なので放置していたという事らしい。
このオートバイは帰らぬご主人を海を見ながら30年以上待っていたのだ。
その表情は、角ばっていてそれでいて丸いライトカウルと相まってどこか悲しげに見えた。
帰りのトラックではくすんでいる翼のエンブレムが夕日に光った。
309 :774RR:2012/03/27(火) 00:31:02.94 ID:AYu8j+9a
家に帰ってその日はもう暗かったのでエンジンは掛けずに、このバイクを調べる事にした。 一晩調べて、このバイクがホンダ ベンリィ CD125k というバイクで、
1969年モデルだという事が判った。
次の日、朝早くに起きてベンリィいるガレージへ行った。
昨晩は気がつかなかったが、もう一台のバイクと顔を合わせていて、
なんだか微笑ましかった。 そのままにして、コーヒーを飲みながら話かけてみた。
俺「お前、ご主人死んじゃったんだってな。 どんな人だった?」
ベンリィ「・・・・・」
俺「30年も海の見える小屋でじっとしてたんだろ? 寒くなかったか?」
ベンリィ「・・・・・」
返事は無い。バイクだから当たり前だ。 ふとタンクを開けてみた。
ピカピカじゃねぇか。 キャブもちょっと掃除すれば平気そうだな。
エンジンオイルもあめ色のきれいなオイルだった。
俺「お前のご主人、死ぬ前に手入れしてくれてたんだな。 何十年も放って置かれるのを知ってたのかな。」
無言の会話でもいいんだ。 俺はこいつといつか旅をすると誓った。
310 :774RR:2012/03/27(火) 00:31:21.63 ID:AYu8j+9a
譲り受けた小屋は電気工事の工具や部材でいっぱいだった。小屋の中、海が見渡せる大きな窓の中にベンリィは置いてあったそうだ。
きっと電気工事で忙しい主人の足として町工場が並ぶ下町、大田区を走りまわっていたのだろう。
雨が降れば当時の砂利道はすぐ水溜りだらけ。 でもそんな泥で主人を汚さない深いフェンダー
どれだけ積んでもびくともしない頑丈なキャリア
坂道でも二人乗りしてても踏ん張り強くうなるエンジン。
見やすく主人の安全を守るランプ類。
会議なんかがあってもスーツと革靴でも載れるロータリーミッション。
主人を安全に早くお客の所へ送り届ける。 それがベンリィの使命。
そんな事を思いながら必死にメンテした。
気味が悪いくらいに中がきれいなタンクにガソリンを入れて、エンジンオイルを交換して、
プラグを磨いて、キック三発蹴った。 グオォォォォォォンン!!
なぜだろう。涙が出た。
その日は一見錆さびのフレームを磨いたりタイヤに空気入れたりした。
幾日かたってからナンバーと自賠責を掛けてベンリィに取り付けた。
ボロいバイクなのにナンバーだけ綺麗。
まだ原付しか免許を持ってないので、免許持ってる親父に乗ってもらった。
心地よいパラツインの音を響かせながら走るベンリィはやはり夕日に輝いていた。
311 :774RR:2012/03/27(火) 00:31:41.84 ID:AYu8j+9a
その後いろいろ忙しくてしばらくほったらかしになってしまった。 今度はいくら蹴っても押しがけしてもうんともすんとも言わない。
どうしたものか。
プラグを変えたり、キャブを掃除したり、燃料コックバラしたり、
点火の配線をひとつひとつテスターで計ったり、やっぱり気になってもう一回キャブばらしたり。
でもうんともすんとも言わない。
どうして?分解したキャブとにらめっこしながら落ち着いてコーヒーをすする。
掃除して乾いてるはずのフロートから何かが染み出ている。 真鍮のフロートに穴が開いていた。
どうしよう。部品も出ないし中古部品もなかなか無いし・・
途方に暮れているときに、近所のおじいさんが通りかかった。 「なんだ、懐かしいバイクだな」
話しかけられて、簡単にここまでの話をした。 するとじいさんは、
「こういう昔のフロートは半田付けで直るんだよ。三日三晩乾かして半田で穴をふさいでみろ」
この時代のバイクは金属でできている部分が多いので修復ができるらしい。
三日三晩じっと待った。そして穴を埋めて、組み立てて、いざキック。
三発目で掛かった。まるであの時のように。
312 :774RR:2012/03/27(火) 00:31:58.18 ID:AYu8j+9a
それ以来、バイクや車に携わっていたと言う御仁に合う度にいろいろな小技なんかを聞いて回った。 ピカールで取れない錆はバーナーであぶったり、木工用ボンドを塗ってはがして見ろとか、
いろんな事を教わった。
そんなこんなで、ベンリィのレストアは、車体代込みで、たった1万二千円で完成した。
いろいろな職人に部品は変えるものではない。直して磨けと言われた。
それはなんだか古臭い考え方な気もしたが、「もったいない」という単語のすばらしさを身をもって感じた。
ピカピカになったベンリィと二人、
可能な限り、できれば死ぬまでこいつと一緒に旅をしようと誓った。
死んでいったご主人、これから亡くなってしまう貴重な技を持った職人たち。
いろんな人の思いを乗せて今日もベンリィは走る。
古いバイクを見かけたら、どうか暖かい目で見てやってくださいね。
きっとそこには色々な思いが詰まってますから。
お わ り
コメント一覧
…たがそれが(・∀・)イイ!!
バイクと持ち主、長生きしろよ!
複雑な加工でもないし、特殊な金属を使うわけでもない。
もちろん、コンピューターなんてのははなからない。
というわけで、部品がなくても何とかなるという話。
なんのジャンルだろうがオタクはきめぇな しかも自分に酔ってるの丸出し
今はコストだとか職人育ててる暇ないとかで
基本は部品全とっかえだな
二輪免許欲しいな。